東京地判平成11年2月25日 (判時1673号66頁) 「キャンディキャンディ」事件(フジサンケイアドワーク偽版画出版差止等請求) :第一審
日本ユニ著作権センター判例全文
東京地裁/判決・請求認容(控訴) 原告:水木杏子 被告:株式会社フジサンケイアドワーク(代表取締役・小川武夫)、いがらしゆみこ 『キャンディ・キャンディ』の複製原画(原価300~500円の印刷物を最高級現代版画と称して3万円~14万円で販売)を原作者に無断で製作・販売した件に関して、原作者の水木杏子が漫画版作画者のいがらしゆみこに(版画と称する印刷物の)出版などの差し止めを求めた訴訟。 東京地裁は水木にも著作権があることを認め、いがらしに(版画と称する印刷物の)出版などの差し止めを命じる判決を言い渡した。 裁判長は「漫画は、原告が作成した原作の原稿を基に、いがらしさんが作成した。従って、水木さんの許諾なしにキャラクターを使用することはできない」と指摘した。 両者は95年11月、「キャラクター使用には同意が必要」との契約を結んだが、いがらし側が契約を守らず、単独で業者とキャラクターグッズの販売契約を結んでいた。
もともとはいがらし側が原作者に無断で製造した「高級版画と称する粗悪な印刷物」に対して契約違反・著作権侵害として提起した出版差止等請求裁判だった。
だがいがらし側弁護士が「『キャンディ・キャンディ』はいがらしゆみこの単独著作物であり水木杏子は著作権を有していない(よって差し止め請求する権利はない)」という法廷戦術を採用し、以後は水木杏子の原作権の確認が争点となった。 一審の弁護士は、キャンディの作品の権利は全ていがらしにあるという方針で裁判にのぞみました。この方針は水木氏の権利を全て否定するもので、私の本意ではありませんでした。しかし、「絵の権利を80得たいならば、100の要求をするのが裁判のテクニックだ」と説明され、裁判のことなどよくわからない私はやむなくその方針に従うしかありませんでした。
これに対し水木は"共同著作物の著作者の権利、又は、右漫画を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有する"ことの法的確認を求めた。
双方が提出した証拠物(連載当時の原作原稿、連載当時の担当編集者の陳述書、講談社法務部の法的見解を示した陳述書、講談社が版権管理をしていた当時の契約書を含む)を検討した結果、 "本件連載漫画につき、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有し、したがって、本件連載漫画の利用に関し、その著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する" "二次的著作物の著作権者であっても、原著作物の著作権者の許諾なく二次的著作物を利用することは許されない" という判断により、水木による差し止め請求が認められた。
双方が提出した作品成立経緯の陳述書(主に原作者、漫画家、漫画家アシスタント、担当編集者、出版社法務部それぞれの陳述)
及び 水木が提出した小説形式の原作原稿(甲第四〇号証~第四三号証) いがらしが提出した漫画原稿(乙第一〇号証~第二一号証) 上記証拠品を検討の結果、地裁は 本件連載漫画は、当初から原告が作成した原作原稿を被告五十嵐が漫画化するものとして「なかよし」編集部によって企画され、実際にも連載の各回ごとに原告が小説の形式で原作原稿を作成し、これを被告五十嵐が漫画化するという手順で制作が行われたものであり、 本件連載漫画とこれに対応する右原作原稿の各内容を対比してみても、前記のとおり、本件連載漫画はおおむね原作原稿の記載内容に沿って具体的なストーリーが展開され、登場人物の吹き出しの台詞や思考・心情の記述もその多くが原作原稿中の記載に基づくものと認められる。 また、出版物における著者の表示や二次的利用の際の権利関係の処理においても、原告は、終始、本件連載漫画につき原作者としての権利を有するものとして処遇され、被告五十嵐もこれを容認してきたものである。
本件連載漫画は、原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる。
つまり、水木杏子は原著作者であり、漫画『キャンディ・キャンディ』は水木の小説形式の原作原稿にもとづいた二次的著作物であると結論した。 尚、漫画家側が主張したデザインの独自性については、 また、被告らは、右主張の中で、人物の容姿・表情・服装、背景について原作原稿中に具体的な指示がなく、専ら被告五十嵐がこれらを創作したことを指摘するが、右のような点は、言語の著作物を漫画の形式に翻案するに当たって、本来漫画家が創作性を発揮すべき作画表現の問題というべきであるから、このような点について原作原稿中に具体的な指示がないとしても、それによって、本件連載漫画が原告作成に係る原作原稿の翻案であることを否定する理由にはならない。
……との判断を下している。
また原作者による指示のない連載当時の表紙絵についても
本件表紙絵は、本件連載漫画のどの場面の絵に対応するものであるかを特定するまでもなく、本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たるというべきである。
連載終了後の描き下ろし絵についても
被告らの右主張の趣旨は、要するに、本件連載漫画における絵の部分は専ら被告五十嵐が創作したのであるから、本件連載漫画を絵という表現形式においてのみ利用することは、被告五十嵐の専権に属するというにある。
つまり、絵のみを切り離して漫画家の占有とすることはできない(絵にも原作者の権利が及ぶ)と結論した。
漫画の原作という仕事について
判決後、一ヶ月の所感 水木杏子
補足:上記の水木所感中の<倉敷の美術館>は、岡山県倉敷市中央1丁目にあった(株)向日葵 運営の旧館を指す。
いがらし側訴訟代理人弁護士:"山崎和義" "熊隼人" "鈴木謙"
|
カテゴリ
すべて
アーカイブ
2月 2022
|