CANDY CANDY BOOTLEGS!!
  • Home
  • overview
  • Blog
  • since then

ステアの戦死とアンソニーの「バラの死」

5/6/2020

 
講談社『なかよし』誌における「キャンディ・キャンディ」連載終盤、企画立ち上げから密に作品と関わっていた初代担当者が抜けて新たな担当に交代してから、立て続けに三件の原作原稿改変トラブルが起こっている。
  1. 1978年12月号:ステア戦死
  2. 1979年1月号:二つのバッヂ
  3. 1979年2月号:ロックスタウン~帰宅
    ​
79年1、2月号については別記事( 『キャンディ・キャンディ』の最終回と「二つのバッヂ」事件 ~水木杏子公認掲示板過去ログより)で解説済みなので、本稿では『まんが原作者インタビューズ』での原作者発言を中心に「ステア戦死」改変事件と、その他の初期構想と連載時のライブ重視展開について紹介する。
まんが原作者インタビューズ 伊藤彩子 同文書院
まんが原作者インタビューズ―ヒットストーリーはこう創られる!
著者(インタビュアー): 伊藤 彩子
出版社: 同文書院 (1999/10)
ISBN-13: 978-4810376616

インタビューイ:矢島正雄、木内一雅、水木杏子、城戸口静、
田島隆、城アラキ、寺島優
01

アリステア・コーンウェルの戦死

1999年インタビューにて漫画原作の仕事から退いた理由をたずねられて。
水木:それは……、私にとってはとてもとても大切なステアが亡くなるシーンが原因で……。ステアは戦争に行って、空中戦で戦死するんだけど、そのときね、敵国のすばらしいパイロットと対戦して、まんがではそのパイロットともステアのパイロットとしての腕に友情を覚えるの。そのとき、ステアが誰だか分からない人の手で撃たれてしまう。
 実はこれは私の原作とは描かれ方が違うの。ステアが空中戦で、相手とパイロットの腕を競い合うまではそのままなんだけど、原作では競い合ってたその相手に撃たれるのね。ステアは育ちがいいの。戦争のすさまじさを理解しながらもどこか人間的に甘い――
 それが彼のやさしさであり私の好きなところなんだけれど、空中戦のさなかであっても相手のすごさに感動したり……。
 まんがでは相手もステアに感動してるんだけど、戦争ってそんな甘いもんじゃない、ステアがふっと相手に気を許したとき、その本人から撃たれてしまう……そう描きたかった。「僕って甘いな……」ってふっと笑って夕日に落ちていく。『撃墜王』とか、ステアを主人公にして物語を書いていたら、戦う相手との友情を描いたかもしれない。でも、『キャンディ』の中では、ステアに割けるコマはわずか。その中で、戦争の過酷さとステアのステキな甘さを書きたかった。

「まんが原作者インタビューズ」P166-167より
水木:(略)でもね、空中戦で撃たれるのは同じだから、これは私のこだわりでしょうね。ちょうどその時は海外に行っていて、いがらしさんのネームの相談にものれなかったし。私の責任でもあるの。(略)

​「まんが原作者インタビューズ」P167より
02
1980年初出のエッセイ「我が友、キャンディ」にも同内容の記述がある。
我が友、キャンディ
(略)
 それは物語も終りに近くステアが戦死する場面だった。
 原作では、ステアは撃墜王と堂々と戦い、ヒコーキを撃たれ戦死することになっている。が、漫画の方は戦いの間にステアと撃墜王の間に友情めいたものがめばえたとたん、誰だか分らぬ第三者の手によりステアのヒコーキは墜される。何度かうちあわせたはずなのに出来上がった絵をみて私はショックで胸がふるえた。
 大事な場面だった。ステアを愛しただけに涙ぐみながらラストシーンを書いた。
 戦争は甘いものではない。残酷で非情なものだろう。敵側と友情が生れるスキもないほど――私はそれも描きたかった。
 漫画としては素晴らしい出来だったが、私は心に穴があいたような気がした。物語の大きな流れの中では、ステアが誰に撃たれようとそう変化はないだろう。どちらの死がより良いか判断もつきにくい。
 が、すべてに満足している物語の中で、ステアの死だけが私の中で漫画と違つている。
 そのとき、私はしみじみと、これはたいへんな仕事だ、と思った。すべての原因は自分にあるのだ。
 私が担当も漫画家も一読して納得するような物語を書いていたら、私自身もショックをうけるような結果はまねかなかっただろう。長いつきあいで、私はいがらし氏に甘えている部分も多くあったかもしれない。もっと話しあうべきだった。『一人』で作っている作品ではないのだ、と私はその日痛感した。
(略)

『児童文芸』 一九八〇年陽春臨時増刊号「特集 子どもと漫画・その人気の秘密 自作を語る」「 我が友、キャンディ / 名木田恵子」より
問題の回を収録した『月刊なかよし』1978年12月号は11月3日ごろ発売。
文脈からすると、原作原稿の入稿時に新担当と綿密な打ち合わせを行なった上で海外旅行に出たが、旅行中に作画者と二代目担当編集者が原作の意図を無視した改変を加えてネームからペン入れまで済ませて入稿、原作者の帰国時には既にゲラ刷り段階まで進んでいたということらしい。
03

アンソニーの「薔薇色の死」

ちなみに「アンソニーの死」についても原作者の初期構想とは違った展開になっているが、これについては漫画家の意向とは全く関係なく、原作執筆段階で初代担当編集者と原作者の話しあいの末に、「やむなし」と受け入れた上で修正し最終入稿している。

参考:名木田恵子(水木杏子)旧公式サイトKeiko Nagitaの小窓から内の連載エッセイ「キャンディとであったころ」最終回「バラ色の死」
web.archive.org

該当発言のあるエッセイ「キャンディとであったころ」全体は、もともと1999年当時、水木杏子旧公式サイトで連載されていたものだが、後に原作者公認ファンサイトに保存を委託され、無断転載、二次使用禁止、サイト内記事の直リンク禁止という条件のもとで公開されている。原作者とサイトオーナーの意向を尊重した上で閲覧願いたい(ファンサイトに委託した理由については名木田恵子公認ファンサイト妖精村にて事情説明のログが保存されていたのでそちらも御一読を)。

​参考:水木杏子公認ファンサイトMisaki's Candy Candy 内「キャンディとであったころ」
エッセイ内でアンソニーの死による退場の源流としてオルコットの『八人のいとこ』があげられているが、正確には続編の『花ざかりのローズ』を指すと思われる。ちなみに『~ローズ』ではスコットランド氏族の若き族長と孤児の少女の恋愛というモチーフも登場する。
尚、「少年が薔薇の毒で死ぬ」という詩的イメージは、後に『なかよし』1979年10月号付録「千鶴と夕のSecret Memory」に収録された「さよならの森(イラスト:あさぎり夕)」という絵物語で生かされている。
参考: 名木田恵子/水木杏子 原作漫画リスト1979年度 
小ネタだが、1979年頃に学研『Fair Lady (フェアレディ)』の編集部で名木田恵子(水木杏子)氏の原稿取りを担当していた方のブログ記事によると、『キャンディ・キャンディ』連載中、既に死亡したキャラをうっかり登場させてしまい電話口で修正を伝えたことがあったそうだ。どのキャラのことだろうか。
参考:​ディープ・タマちゃん Tamachan the onion deep (May 10, 2005)  原稿取りの日々
04

『なかよし』1978年6月号インタビュー

講談社『なかよし』1978年6月号
『なかよし』1978年5月号で「キャンディ・キャンディ」は第3部完結、翌6月号では休載し、代わりに「いがらし・水木両先生に緊急インタビュー キャンディ・キャンディ第4部はどうなる?」と題した記事が掲載された。以下、前半部を抜き書き。
テリィとキャンディのこれからは……?
編集部:第三部は、キャンディとテリィの別れというおもいがけない結末で、読者からもたいへんな反響がよせられています。そこでズバリおききしたいのですが、これからの二人はどうなるのでしょう?テリィはもう、第四部には登場しないのですか?

いがらし先生:そんなことはないですよ。

編集部:ということは、二人はまたむすばれるかも?

水木先生:さあ、どうかしら……。それはご想像におまかせします。

編集部:ひょっとして、テリィにかわる新しい男性があらわれるとか?

いがらし先生:これだけはハッキリいえますが、キャンディはそんなに浮気な女の子じゃないです。

水木先生:そう、二人の愛は、青春をかけた真剣な愛だったはずです。ただ一ついえることは、人間にはいろんな愛がありますね。だからキャンディに、テリィの場合とはまったくちがった大きな意味での愛が、また生まれる可能性はあります。

編集部:そうですか。でも、キャンディがあまりにもかわいそうという声が多いのですが、第四部ではかの女はしあわせになれるでしょうか?これは、すべての読者の願い、いや祈りだと思うのですが……。

いがらし先生:あたしたちも、心からそうなるように望んでいます。

水木先生:第四部も、キャンディにとってはけっして平たんな道ではないけれど、かの女なら負けないわよ。
イライザとニールがまたまた大活躍!
編集部:三月号でキャンディに別れをつげたステアも、気になる存在ですね。

いがらし先生:そう!第四部ではステアのしめるウエートが大きくなるの。すごくいいんだから。

水木先生:印象的な存在ね。それにイライザとニール……。

編集部:エッ?それじゃ二人は、心をいれかえるのですか?

水木先生:ううん。反省の色はまったくなし。ますますにくたらしくなって、動きまわるの。

編集部:ああ、そうですか。じゃ、また二人には、そうとうイライラさせられそうですね。
……と、このように連載中も原作者の存在は周知されていたにもかかわらず、「原作者は名ばかりの存在」と吹聴して権利を否定するいがらし先生とそれに追従する日本マンガ学会は強心臓極まりない。
05

「三つの愛」と「母親探し」

ケイブンシャ『キャンディ・キャンディ大百科』
ついでに昭和55年6月25日初版発行ケイブンシャの『キャンディ・キャンディ」大百科』より、原作者インタビューページ。
(画像左上は最終回を執筆したフランスのシャトーホテルの写真)

目新しい発言はないが、その後のインタビューやエッセイで何度も繰り返している「キャンディの三つの愛」についてはこれが初出かそれに近いものではなかろうか。
(略)みなし子だから母を探すという今までの常識を度外視して前向きに生きる女の子の人生に3つの愛――ひとつめははかないアンソニーとの初恋、透明感のある男の子とのやさしさだけの愛、次にテリィとの激しい青春の愛、好きでも別れなければならない愛、最後にアルバートさんとのおだやかな愛を入れて書きました。
孤児が主人公でも「母親探し」はしない(母もの、出生の秘密もの、貴種流離譚にはしない。過去ではなく明日をみつめる少女の自立を描く)というのも各種インタビューで繰り返し語られている作品の根本精神であり、『まんが原作者インタビューズ』でも連載開始時に決定したコンセプトとして再度言及されている(キャンディの母親に関する下世話な妄想を吹聴する人たちがいるせいかもしれない)。
(略)いくつか決めたことは、「母親探しはやめよう」ってこと。親が誰であれ、運命を受け入れて、ひとりで生きていくことが大事なんだってことを言いたかった。
 キャンディを書いた当時、私は母を亡くして二年目だったかな……。十二歳で父を亡くしていて、一人っ子なので、本当にひとりになってしまった。二五年もたった今だからそう感じるのだけれど、キャンディを書くことで癒されていったと思う。いくら考えても仕方のないことは振り返らず、先に進まないと!明日はもっといいことがあるかもしれないんだから。

​「まんが原作者インタビューズ」P167-168より
ケイブンシャの大百科には「キャンディを生んだすてきな”おねえさま”水木杏子先生」のインタビューと共に、「キャンディの笑顔で日本中を魅了したいがらしゆみこ先生」の第一回講談社まんが賞受賞のよろこびの声を記したページもある。
(略)「キャンディ・キャンディ」は、私がかいてきたまんがの中では、いちばん長い連載です。原作者の水木杏子さんと私との間に生まれ「なかよし」の編しゅうの方たちと、私の仲間たちに栄養をもらいながら育ってきた子供のような気がします。
 連載は終わりましたが、私たちの子供、キャンディは、今も私の心の中に生きつづけています。キャンディを愛し、かわいがってくれたみなさん、どうかこれからもずっと、あなたの心の中で、キャンディを育て、見まもっていってあげてください。
いがらしゆみこと組んで原作者に無断でキャンディグッズを製造販売した業者は、驚いてコンタクトをとった水木杏子に「原作者だという証拠をみせろ」と言い放ったそうだが、単行本の表紙やアニメOPのテロップ、放映当時のキャラクターグッズに原作者表記があり、キャンディブーム当時には各種媒体で原作者が顔出しでインタビューに答えている上、いがらしゆみこ自身が水木杏子を「原作者」に位置付けている発言も山ほどあるのだが……版権詐欺の片棒をかつぐような企業はどこも強心臓極まりない。
参考:『キャンディ・キャンディ』の設定やキャラクターに関する原作者発言を含む記事
  • 『キャンディ・キャンディ』の最終回と「二つのバッヂ」事件
  • 『キャンディ・キャンディボックス : なつかしいポニーの丘から』について
  • 『小説キャンディ・キャンディFINAL STORY』に関する著者一問一答
  • 復刊ドットコム版『小説キャンディ・キャンディ』刊行の経緯
  • 『キャンディ・キャンディ』の年表とキャラクターの生年月日
名木田恵子/水木杏子/加津綾子/香田あかね 原作漫画リストTOP

    カテゴリ

    すべて
    Anime
    Archive
    Eurian
    Faq
    Final Story
    Nagita Manga
    News
    Others
    Trials

    アーカイブ

    2月 2022
    2月 2021
    5月 2020
    3月 2020
    1月 2020
    8月 2019
    6月 2019
    1月 2019
    4月 2018
    3月 2017
    4月 2016
    4月 2013
    4月 2012
    11月 2010
    10月 2010
    8月 2009
    7月 2009
    6月 2009
    11月 2008
    1月 2007
    9月 2005
    7月 2004
    11月 2003
    9月 2003
    6月 2002
    5月 2002
    2月 2002
    1月 2002
    12月 2001
    11月 2001
    10月 2001
    3月 2001
    2月 2001
    12月 2000
    10月 2000
    9月 2000
    7月 2000
    5月 2000
    3月 2000
    4月 1999
    2月 1999
    2月 1998
    12月 1986
    8月 1979

    RSSフィード

    管理人の旧ブログ
のシステムを使用 カスタマイズできるテンプレートで世界唯一のウェブサイトを作成できます。
  • Home
  • overview
  • Blog
  • since then