水木杏子/名木田恵子公認ファンサイト「妖精村」掲示板で、旧小説版復刊当時(2003年)に『なかよし』連載版と単行本との変更点について尋ねられての原作者解答。
わたしの中のキャンディ
※"育てている別の漫画家の連載(しかも、キャンディと似た作品)"はいがらしゆみこのアシスタント出身である原ちえこ作、西洋大河ロマンものの『フォスティーヌ』(1978年3月号より連載開始)を指していると思われる。
別記事(ステアの戦死とアンソニーの「バラの死」)でも触れたが、連載終了間近の号では度々作画者による原作改変をめぐるトラブルがあった。
(尚、名木田/水木の原作原稿は小説形式で書かれており、各キャラクターの科白まできちんと書き込まれている) 物語の流れとしては、
1. アルバート失踪
ひとり寂しさに震えるキャンディ モノローグ「どこにいるの……」 a. 「あたし はじめてアルバートさんを おいかけている……」「レイクウッドでさよならもいわずに別れた……」「ロンドンでも……」「だけど……またどこかで会えると信じていた いつかふっとあたしの前に立ってくれると……」 「いつだってそうだったから……」「あたしが悲しいときあたしがつらいとき いつもやさしく だきとめてくれるアルバートさんだから……」 「でもいまは……」 「会いたいの いますぐ会いたいのアルバートさん」「どこを さがしたらいいの……」 2. ロックスタウンから発送された小包届く 3. ドサまわりのテリィの姿を見る 客席にキャンディの「幻」を見たテリィは演技への情熱を取り戻し、 コマ1: テリィの背景のイメージシーンは『ブロードウェイで活躍する自分の姿』 モノローグ「よみがえるストラスフォードの日々…… ブロードウェイの舞台……」 コマ2: テリィモノローグ「これが おれの演技だ!」 4. 帰宅、ジョルジュが迎えに ひとりきりの部屋でアルバートとの思い出にひたるキャンディ おそろいのマグカップを見ながら回想「カーテンはこの色がすき!いいでしょ」「おそろいのパジャマかい」「イニシアルいりのモーニングカップ買っちゃった バーゲンでやすかったの」「いっしょにきめようっていったのに けっきょくキャンディ一人でえらんじゃうんだな」 モノローグ「ここは一人でくらすにはさびしすぎる……」 窓の外に元気な子供達の声。ポニーの丘の子供時代を思い出すキャンディ。 b. 「ポニーの丘……子どもたちのわらい声……」「ポニー先生……レイン先生……」「あたたかい窓べのあかり だんろの前のだんらん……」「帰ってらっしゃいキャンディ……ここがあなたの ふるさとよ……」 モノローグ「帰りたいポニーの丘に!」「ううん帰ろう!」「ひとりぼっちはいやだ!」「そして……ポニーの家からかよえるところに看護婦の仕事をみつけて……」 自分の原点を確認し、看護婦としての未来を見据えたところで部屋にノックの音。開けるとジョルジュ。
1. アルバート失踪
ひとり寂しさに震えるキャンディ。 枕の下から『王子様のバッジ』を見つける。ポニーの丘の子供時代を思い出すキャンディ。 b. 「ポニーの丘……子どもたちのわらい声……」「ポニー先生……レイン先生……」「かえってらっしゃいキャンディ……ここがあなたの ふるさとよ……」「あたたかい窓べのあかり だんろの前のだんらん……」 モノローグ「かえりたい!ポニーの丘に……」「ううんかえろう!」「ひとりぼっちはいやだ!」「そして……ポニーの家からかよえるところに看護婦のしごとをみつけて……」 胸元で『王子様のバッジ』の鈴が鳴る。 モノローグ「王子様のバッジ二つある!」「一つは……あたしがずっとつけていて……もう一つは まくらの下から……」「なぜ……こんなところに……」「このベッドはアルバートさんがつかっていて……」 「もしかして……もしかしてアルバートさんはアードレー家の人……?」 「アルバートさんは……」 「会って……会ってたしかめたい……」「アルバートさんどこにいるの……」 2. ロックスタウンから発送された小包届く 3. ドサまわりのテリィの姿を見る 客席にキャンディの「幻」を見たテリィは演技への情熱を取り戻し、 コマ1: テリィの背景のイメージシーンは『キャンディの笑顔』 モノローグ「キャンディ…… まぼろしであっても きえないでくれ!」 コマ2: テリィモノローグ「おれはいま おまえのために演じている!」 4. 帰宅、ジョルジュが迎えに ひとりきりの部屋でアルバートとの思い出にひたるキャンディ。 モノローグ「アルバートさん あたしポニーの家に帰ります」「ここは一人でくらすには さびしすぎる……」 a. 「アルバートさん……アルバートさんを あたしはじめて 追いかけてる……」「レイクウッドでさよならもいわずに別れた……」「ロンドンでも……」「だけど……またどこかで会えると信じていた いつかふっとあたしの前に立ってくれると……」 「いつだってそうだったから……」「あたしが悲しいとき あたしがつらいとき いつもやさしく だきとめてくれる アルバートさんだから……」 「会いたいの…… すぐにでも会いたいのアルバートさん……」 キャンディがアルバートに対する思慕をつのらせているところで部屋にノックの音。 モノローグ「アルバートさん!」 開けるとジョルジュ。 全体的に、漫画家による原作改変『なかよし』版は「キャンディ、テリィとも恋愛脳」 原作者の抗議により修正された単行本収録版は「キャンディ、テリィとも過去の苦しい恋愛を乗り越えて職業人として再起を決意」 冬の小窓~二つのバッジ
名木田氏は最終回前の数回分の原稿はまとめて執筆して編集に渡して旅行に出かけた為、連載時のいがらし氏によるエピソード配置の変更や無断改変・原作にないシーンの挿入には対応できなかった。
ちなみにキャンディ終盤で名木田氏が旅行がちだったのは、毎日新聞社の「旅にでようよ」という雑誌で紀行エッセイを連載していた為。キャンディ最終回を執筆したフランス編を含めて『名木田恵子ひとり旅 』という単行本にまとまっている(フランス編のシャトーホテルのパートは「おゆみ」に宛てた手紙形式で書かれている)。 企画立ち上げ時の担当編集者と名木田氏はこの作品を「少女の成長ドラマ」と捉えていたが、漫画家と二代目担当は「スイートなラブストーリー」と解釈し、原作原稿を改変し自分達の望む方向に引っ張っていこうとしていたようだ。 帰国した名木田氏は漫画家に申し入れて単行本化の際には原作に沿った内容に改めさせ、エッセイ(「我が友、キャンディ」)などでは「幸い、担当もいがらし氏もこんな私をよく理解してくれた」と書いているが、実際のところいがらし氏は「私の仕事に上からケチをつけて…」と、内心不満を募らせていたのだろうと思う。 平成11年9月3日付けで旧いがらしゆみこ公式サイトにあげられた、一連の事件の自己正当化の声明文には、 4年半の長編で、私は名木田さんから参考資料として何一つ用意してもらったことはありませんでした。
とあった。現実には、名木田氏は確かにフランスのシャトーホテルDomaine de Beauvaisで最終回を執筆したのだが、いがらし氏がネーム作業に入る前には帰国しており、いがらし氏や担当編集者と最終回の構成について電話で打ち合わせをしている。
事実関係としては、いがらし氏の声明文は真っ赤な嘘なのだが、意識的な捏造というよりも、長年腹に溜め込んでいた不満がフィルターになって過去の記憶が歪んでしまっているのではないかと思う。 つまり、実際に「名木田が旅行に行っていたせいで原作原稿を改変する相談ができなかった」のは、最終回(1979年3月号)ではなく最終回前に書き溜めて渡していった2話分(1979年1、2月号)の事。 その回について後からあれこれとクレームをつけられ、単行本化の際に原稿の書き直し作業を強いられたのを根に持っていた為に、四半世紀たって自己正当化の声明文を書く際に「自分の主観による感情的真実」としてああいう不正確かつ恨みがましい文章を書いてしまったと。 最終回の原稿について ◆ 水木杏子 1999-11-25 (Thu) 23:25:01
最終回執筆時のエピソードは『名木田恵子ひとり旅』やエッセイ「我が友、キャンディ」などで披露されている。
(略)
上記と同内容だが、発表時期が一番早い原稿と思われる1978年に『サンデー毎日』に連載された全6回のエッセイ「おんなの午後 名木田恵子編」のうち第4回「しあわせな主人公(ヒロイン)」を転載する。
十一月の半ば、十日ほど晩秋のパリを旅してきた。
『サンデー毎日』の1978年12月17日号は同年12月4日発売、「キャンディ・キャンディ」の最終回が掲載された『なかよし』1979年3月号はそれから約2ヶ月後の1979年2月2日発売のはず。一般週刊誌でも国民的大ブームとなった作品の完結はニュースとして注目され、今や「時の人」である原作者の創作秘話掲載が歓迎されたのだ。
短いエッセイとはいえ転載は著作権法上よろしくないのだが、いがらし氏と親しい日本マンガ学会理事が「いがらしは水木の原作原稿を一切見ずに最終回を描いた」などと虚偽を吹聴し、最高裁判決後の問題解決を困難にしたという事情があるため、当時を知ることができる貴重な資料としてあえて記録しておく(権利者より指摘があった場合は即座に消去します)。
最後に、毎日新聞社の雑誌『旅にでようよ』連載の紀行エッセイをまとめた単行本『名木田恵子ひとり旅』より、フランスのシャトーホテル Château De Beauvois (現在はワイン造りを辞めたのか、名称がDomaineからChâteauに変更されている)の滞在記を引用。
それから魔女の館のようなブロワ城をめぐり、一人、タクシーで "ホテル・ドメーヌ・ド・ボーボワ" に着いた時は真っ暗になっていました。
参考:『キャンディ・キャンディ』の設定やキャラクターに関する原作者発言を含む記事
コメントの受け付けは終了しました。
|
カテゴリ
すべて
アーカイブ
2月 2022
|